追記6:東電福島原発の事故でこれから怖れなければならないのは誘発地震?

DAISY河村宏さんのtwitter(2011年8月8日)によれば、「メルトスルーした核燃料は地下で水蒸気爆発や誘発地震を起こす可能性を否定できない。大量の水等による原発地下の岩盤への影響も懸念事項」。

追記1〜10は、この頁のいちばん下にあります】

建築の雑誌『施工』(彰国社)
シリーズ連載「地震学の冒険」1997年1月号・その11
(これは加筆して『地震学がよくわかる---誰も知らない地球のドラマ』(島村英紀)に再録してあります)

人間が起こした地震
人間でも地震の引き金を引けるときがあるのです

 阪神淡路大震災(1995年)のときに間一髪で被害を免れた評論家の小田実氏は、当時造られつつあった明石海峡大橋の工事が天に唾する行為で、それが兵庫県南部地震を起こしたに違いない、と書いた。地震直後の行政の対応や、かねてからの神戸周辺の開発行政に怒り心頭に発していたのであろう。

 また作家の野坂昭如氏も別の文章を残している。それには、戦前の大水害や第二次世界大戦での空襲の大被害からの戦後の復興がめざましかったばかりではなく、その後の市街地開発や山を削って海を埋め立てる国土改造の先兵だった神戸を兵庫県南部地震が襲ったこと、しかも季節が冬で、新幹線が通る寸前の明け方だったことに神の存在を確信する、と書いてある。

 もちろん、エネルギー的には、神ならぬ人間が大地震を起こせるわけではない。大地震のエネルギーは大きな発電所の何百年分もの発電量に相当するくらいだから、おいそれと人間が作り出せるエネルギーではないからである。

 しかし、人間は間接的には地震を起こせないことはない。つまり、地震が起きそうなだけ地下にエネルギーがたまっているときには、人為的な行為が地震の引き金を引くことは出来るのだ。

 米国コロラド州のデンバー市のすぐ北東で深い井戸を掘って、放射性の汚染水を捨てたことがある。米空軍が持つロッキー山脈兵器工場という軍需工場の廃液であった。それまでは地表にある貯水池に貯めて自然蒸発させていた。厄介ものの汚染水を処分するには自然蒸発よりはずっといい思いつきだと思って始めたのに違いない。井戸の深さは3670メートルもあった。大量の汚染水を捨てるために、圧力をかけて廃水を押し込み始めた。

 この廃液処理を始めたのは1962年3月のことだ。3月中に約16,000トンもの廃水が注入された。

 四月になって間もなく、意外なことが起きた。もともと1882年以来80年間も地震がまったくなかった場所なのに、地震が起きはじめたのだった。

 多くはマグニチュード4以下の小さな地震だったが、中にはマグニチュード5を超える結構な大きさの地震まで起きた。マグニチュード5といえば、松代での群発地震の最大の地震に近い大きさだ。もともと地震活動がごく低いところだから、生まれてから地震などは感じたこともない住民がびっくりするような地震であった。人々はこの工場での水の注入が地震を起こしていることに気づき、ちょっとした騒ぎになった。

 そこで、1963年9月いっぱいで、いったん廃棄を止めてみた。すると、10月からは地震は急減したのである。

 しかし、廃液処理という背に腹は替えられない。ちょうど1年後の1964年9月に注入を再開したところ、おさまっていた地震が、突然再発したのである。

 そればかりではなかった。水の注入量を増やせば地震が増え、減らせば地震が減ったのだ。1965年の4月から9月までは注入量を増やし、最高では月に3万トンといままでの最高に達したが、地震の数も月に約90回と、いままででいちばん多くなった。水を注入することと、地震が起きることが密接に関係していることは確かだった。

 量だけではなく、注入する圧力とも関係があった。圧力は、時期によって自然に落下させたときから最高70気圧の水圧をかけて圧入するなど、いろいろな圧力をかけたが、圧力をかければかけるほど、地震の数が増えた。

 このまま注入を続ければ、被害を生むような大きな地震がやがて起きないとも限らない。このため地元の住民が騒ぎ出し、この廃液処理計画は1965年9月にストップせざるを得なかった。せっかくの厄介者の処理の名案も潰えてしまったのであった。

 地震はどうなっただろう。11月のはじめには、地震はなくなってしまったのであった。

 こうして、合計で60万トンという廃水を注入した「人造地震の実験」は終わった。誰が見ても、水を注入したことと、地震の発生の因果関係は明かであった。

 地震の総数は約700、うち有感地震は75回起きた。震源は井戸から半径10キロの範囲に広がり、震源の深さは10キロから20キロに及んだ。これは井戸の深さよりも数倍も深い。これは井戸からまわりに水がしみ込んでいったためだろうと考えられている。

 もうひとつ同じような例がある。このときには、軍需工場での廃液処理の前例があったために、地震との関連をくわしく見るために、計画的に水の注入と汲み上げが行われた。井戸のまわりには多数の地震計が置かれて、地震を監視することになった。場所は同じコロラド州だが、西部にあるレンジリーというところで、実験に使った井戸は、使わなくなった油田の井戸だった。

 この油田で石油の深い井戸に水を注入したところ、やはり地震が起きた。じつは水の注入は原油の産油量を増やすためによく行われることだ。このときも、水を注入したときには地震の数は月に十数回になり、最大の地震のマグニチュードは四を超えた。また、水を汲み上げたときには、明らかに地震は減った。また、水を注入する圧力がある閾の値を超えると、地震が特に増えるようであった。

 では、水を人工的に地下に注入したときに、地下ではなにが起きていたのだろうか。十分正確にわかっているわけではないが、岩の中でひずみがたまっていって地震が起きそうな状態になったとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする、つまり地震を起こしやすくする働きをするらしい。いわば、地震の引き金を引いてしまったのだ。

 つまり、人間が地下に圧入した水や液体が、岩盤の割れ目を伝わって井戸の底よりも深いところにまで達して、その先で地震の引き金を引いたのに違いないと考えられている。

 日本でも例がある。前に話した長野県の松代町では、群発地震が終わったあと、1800メートルの深い井戸を掘って、群発地震とはなんであったのかを研究しようとした。その井戸で各種の地球物理学的な計測をしたときに、水を注入してみたことがある。

 このときも、水を入れたことによって小さな地震が起きたことが確認されている。しかもこのときは、米国の例よりもずっと弱い14気圧という水圧だったのに、地震が起きた。

 このほか、意図して水を地下に注入したわけではないが、ダムを作ったために地震が起きたり、あるいは地震が増えたことが世界各地のダムで確認されている。

 米国のネバダ州とアリゾナ州にまたがるフーバーダムは高さ221メートルもある大きなダムだが、1935年に貯水を始めた翌年から地震が増え、1940年にはこのへんでは過去最大になったマグニチュード5の地震が起きた。地震の震源は地下8キロにあった。もちろんダムの底よりはずっと深い深さだ。しかし、これはダムを作ったために起きた地震だと考えられている。

 また、アフリカのローデシアとザンビア(ジンバブエ)の国境にダムを作って1958年からカリバ湖に貯水を始めた。高さが128メートルあるダムで、世界最大の人造湖が出来た。ダム建設前から近くで小さな地震が起きているところではあったが、貯水が始まってから満水になった1963年までに地震が急増し、2000回以上の局地的な地震が起きた。満水になった年には、マグニチュード5.8の地震が起きて被害が出た。松代群発地震での最大の地震よりは大きな地震だ。

 このほかギリシャのクレマスタ・ダムは1965年の貯水開始後に地震が起き始め、4ヶ月後には地震が急増、七ヶ月後にはマグニチュード6の地震が起きて、やはり被害が出た。
 また、旧ソ連のタジキスタンに作られた317メートルの高さがある巨大なヌレクダムでは、完成前に貯水を始めたとたんに近くの地震が増え始め、その後も小さな地震が起き続けている。このダムは世界で最も高いアースフィルダムである。

 そのほか、高さ105メートルの中国広東省にある新豊江ダムでも1959年にダムの貯水が始まったあと地震が増え、1962年にマグニチュード6.1の地震が起きた。この地震では幸いダムは壊れなかったものの、ダムの補強が必要になったほどの被害があった。この地震後も小さな地震は活発に起きていて、地震後10年で地震の数は25万回にも達した。中国ではこのほかのダムでも地震が起きており、いま作られている巨大ダム、三峡ダムでも地震の発生を心配している地震学者も多い。

 これらのダムでの地震は、幸いなことに、大きな被害は生まなかった。しかし、じつはダムを作ったために起きた地震が大きな被害を生んだこともあるのだ。

 1967年にインド西部でマグニチュード6.3の地震が起きた。177人、一説には200人が犠牲になったほか、2300余人が負傷した。この地震は近くにコイナダムという高さ103メートルのダムを造ったことによって引き起こされたものだというのが地震学者の定説になっている。

 ダムで貯水が始まったのは1962年だったが、それ以後、それまでは地震がほとんどなかったところなのに、小さな地震が起き始めた。これらの地震はせいぜいマグニチュード四クラスだったが、ダムとそのすぐ近くの25キロメートル四方の限られた場所だけに起きた。ダムの周囲はもともと地震活動がごく低いところで、100キロメートルで地震が起きているのはここだけだったから、目立った。震源の深さは6キロから8キロメートルだったが、ダムの高さは103メートルだから、ダムの底よりはずっと深いところで地震が起きていたことになる。

 そして貯水が始まってから5年目の1967年になって、まず9月にマグニチュード5を超える地震が2回起き、ついに12月にマグニチュード6.3の地震が起きて大きな被害を生んでしまったのであった。

 その後もマグニチュード5を超える地震が数回起きているが、いずれも、ダムの水位が1週間あたり12メートル以上と急激に上がったときに起きた。

 なお、ここでは貯水開始以来ずっと地震の観測が続けられていて、雨が降ると小さな地震が増えるという関係も見られていた。雨が降ると貯水量が増え、それが地震を増やすのだろうと思われている。

 雨といえば、大西洋のまん中にあるアゾレス諸島では、雨が降ると地震が起きる。

アゾレス諸島はポルトガル領の島で、島民は漁業や農業で暮らしている。日本とは地球の反対側だが、日本との縁は浅くない。この島に上がったマグロの多くは遠く日本まで運ばれる。いちばん高く買ってくれるのは日本だからである。

 アゾレス諸島は7つの島からなるが、そのどれもが火山島で、島にある山頂上に登ると、足下に深い火口がぽっかり口を開けていて足がすくむ(右の写真=島村英紀撮影)。ここでは雨が降ると約2日後に、被害は起こさないが人間が感じる程度の地震が起きる。つまり火山のカルデラに雨がしみこんで、その地下水が地震を起こすのである。

 ところで、ダムが起こした地震には限らないが、地震でダムそのものが壊れて大きな被害を出したことは、幸い、いままでのところはない。しかし、1971年に米国カリフォルニア州ロサンゼルスのすぐ北の郊外にあるサンフェルナンドでサンフェルナンド地震が起きたときには、ひやっとする事件が起きた。

 震源から10キロも離れていないところにロアーファンノーマンダムというダムがあった。このダムは地震の30年ほど前に造られたものだったが、地震でダムの内部に大きな地滑りが起きて、ダムがもう少しのところで決壊するところだったのである。

 この地震のマグニチュードは6.5だったが、直下型として起きたために、大都市ロサンゼルスの交通をはじめ、ガスや電話といった都市機能が大幅に麻痺してしまった。ライフライン工学の研究が進められるようになったきっかけになった地震である。死者は65名、うち45名は老朽化した病院の建物が壊れたために犠牲になったものだった。

 この地震のときには、たまたまダムの貯水量が少なかったからよかったものの、ダムの厚さがわずか一メートルを残すところまで崩れて、人々の肝を冷やした。下流の住民約8万人があわてて避難したが、もしあと1メートル崩れてダムが決壊していたら、大惨事になっただろう。

 ダムが地震を起こすのは、ダムに溜められた水が地下にしみこんでいくことと、ダムに溜められた水の重量による影響と、両方が地震を起こすのに関係すると思われている。このため、ダムの高さが高いほどしみ込む水の圧力が高く、また水の重量も大きいだろうから、地震が起きやすいと考えている地震学者は多い。

 廃液の地下投棄やダムのほか、人類の活動が地震を起こした例は世界各地ですでに70ヶ所以上の場所で知られている。

 地球内部の研究をするためや、石油や鉱脈を見つけるために人工地震を起こすことがある。これらの人工地震は火薬を使ったり、圧搾空気を使って起こすのだが、本当の地震を起こすわけではない。

 しかし図らずも人間が起こしてしまったこれら「人造地震」は本物の地震だ。学問的には「誘発地震」という。この誘発地震の原因としては、鉱山、地熱利用、石油掘削、原油や天然ガスの採取、地下核爆発などが知られている。

 いままでに起きた最大の地震のマグニチュードは、ダムの地震では六を超えているが、その他の誘発地震ではもっと小さく、五を超えるものが知られている程度だ。地震の数からいえば、大抵のものは被害を起こさない程度の小さい地震である。

 しかし、これには異説もある。米国カリフォルニアで起きたコアリンガ地震(1983年、マグニチュード6.5)は大油田の下で起きたかなりの地震で、その余震域は油田の広がりとほとんど一致している。原油の汲み出しによって地殻にかかる力が減った分とちょうど同じだけ地震のエネルギーが解放されて地震が起きたという報告もあり、この地震も人造地震ではなかったかと考えている地震学者もいる。

 英国とノルウェーが石油を採掘している北海油田は海底にあり、いまのところ目立った地震は起きていないが、もし大きな地震が起きて原油の流出でも起きたら、大きな環境問題になりかねない。このため、ノルウェー政府は、北海油田の近くで起きるごく小さな地震の監視を始めている。

 しかし、これらの誘発地震については、まだ研究が進んでいない面が多い。たとえばヒマラヤ地方では、高さ200メートルを超えるダムをはじめ、ほかのダムでも地震が起きているようには見えない。どこのどういうダムで地震が起きるのかは、まだほとんどわかっていないのである。

 地震は自然にも起きるものだから、起きた地震がダムのせいであったかどうか、議論が分かれている地震もある。たとえば、1993年にインド南部でマグニチュード6.2の地震が起きて、1万人もの死者と3万人もの負傷者を生んだことがある。約10キロ離れたところに出来たダムからしみこんでいった水が起こした地震ではなかったかと考えている地震学者もいる。

 また、死者29名を生んだ1984年の長野県西部地震(マグニチュード6.8)も3年前から貯水を始めていた近くの牧尾ダムが起こしたダム地震ではなかったかという学説もある。また北美濃地震(マグニチュード7.0。死者8名を生んだ)も1年前に貯水を始めた近くの御母衣(みほろ)ダムとの関連を疑っている学者もいる。しかし、議論の決着はついていない。

 その他、ダムが出来てからすぐには地震が起きず、20年近くもたってから比較的大きな地震が起きたエジプトのアスワンにあるハイダムのような例もある。このダムで貯水が始まったのは1964年で、1978年に178メートルの水位に達したあと、1981年11月にマグニチュード5.6の地震が起きたのだった。貯水開始後17年もたってからである。

 エジプトの3000年以上の歴史の中で、このあたりに地震が起きたことはない。たぶん史上初の地震を起こしてしまったのであろう。いずれにせよ、このエジプトのダムの例のように、水を貯め始めてから、いつ、どのような地震が起きるのか、あるいは起きないのかには、まだ謎が多いのである。

 とくに日本のように、もともと地震活動が盛んなところでは、そもそも起きた地震が「自然に」起きたものか、人工的なものかを見分けることがむつかしい。また、政府や電力会社も、この方面の研究を好まない。それがこの方面の研究が進まない理由になっている。しかし、世界の他の国に起きていて、日本だけ起きないと言う理由はあるまい。

 人間が世界各地で行っている開発や生産活動は、これからも知らないあいだに、地震の引き金を引いてしまうかも知れないのである。

(イラストは『地震学がよくわかる---誰も知らない地球のドラマ』(島村英紀)のために、イラストレーターの奈和浩子さんに描いていただいたものを再録しました)


追記1:

 2004年に起きた新潟中越地震の震央から約20kmしか離れていないところに天然ガス田(南長岡ガス田)があり、地下4,500mのところに高圧の水を注入して岩を破砕していた。

坑井を「刺激」するために、深い井戸を通じて油ガス層に人為的な刺激を与え、坑井近傍の浸透性を改善することにより生産性を高めるために行われているものだ。 地下4,500m付近に分布する浸透性が低い緑色凝灰岩層に対して「水圧破砕法」を使って岩にひび割れを入れ、生産性を8倍も増加することに成功したと言われている。

  新潟中越地震の震源の分布図(東京大学地震研究所)によれば、余震分布の上限は4,000m程度、本震(ここでいう本震は地震断層の「壊れはじめ」で、本震そのものは余震域全体に拡がっていたと地震学では考えられている)の深さは13kmだから、震源に極めて近いところで「作業」をしていたことになる。

 南長岡ガス田は1984年に生産を開始していたが、21世紀になってから 「水圧破砕法」を使い始めていた。

 それだけではない。ここでは、経済産業省の外郭団体である地球環境産業技術研究機構が主体となって、2003年から、新潟県長岡市の地下約1100mに二酸化炭素を圧入する実証実験をやっていた。大量の二酸化炭素を地中に圧入する「実験」が行われていたのである。

 地球温暖化の元凶である二酸化炭素を将来、大量に処理するための実証実験だった。二酸化炭素の回収技術は、肥料生産工場などですで実用化されている。また、地中貯留は、石油掘削技術や、天然ガスの地下貯蔵や石油増進回収(EOR)等で蓄積された技術があり、それを二酸化炭素の圧入・貯留に応用できる、という意味で工学的には実用的な技術として期待されているのだ。

 
圧入は2003年7月7日に開始、その年度は20トン/日で、2004年度は40トン/日で圧入した。その後、二酸化炭素供給工場の定期点検・整備や二酸化炭素の供給逼迫期の圧入休止、それに新潟県中越地震による圧入中断(2004.10.23〜12.6)はあったものの、2005年1月に実験を完了した。1日に20〜40t、約1年半かけて、合計10,405トンもの大量の二酸化炭素を地下深部に圧入したことになる。

 圧入された深さは1100mだが、背斜構造になっている、いちばん上部の場所だから、地層としては、ずっと深いところまで連続している地層である。簡単に言えば、液体を通さない層(キャップロック)が傘のようにある、その頂上部の内側に、圧入したことになる。

また、圧入した地層は、岩相から大きく5つのゾーンに区分されていたが、そのうちの浸透性が最も良好なZone-2(層厚約12m)を圧入する対象として選んでいた。つまり、圧入した二酸化炭素が、もっとも遠くまで行きやすい層を選んでいたわけだ。圧入された二酸化炭素は、「傘」の内側に沿って、下の遠くに運ばれていったに違いない。

 なお、実験が終わった
いまは、地上設備も撤去されている。

 この実験期日からいえば、実験開始から1年後に新潟中越地震が発生したことになる。この圧入井戸は震源(壊れはじめの地点)から20kmしか離れておらず、地震学的には、ほとんど震源の拡がりの中にある。

  さて、そうなると冒頭の小田実さんの怒りも「邪推」として退けていいか心配になってくる。阪神淡路大震災の少し前に工事をしていた明石海峡大橋では、主橋脚のひとつを海中で作っていた。海底に穴を開け、岩盤をさらに掘り進んで橋脚の基礎を作っていたはずだからである。 橋脚は兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)を起こした野島断層から決して遠いところではなかった。

【追記の追記】:そして2007年に起きて、柏崎刈羽原発に甚大な被害を引きおこした中越沖地震も、この井戸から、(中越地震とは反対向きに)やはり20kmしか離れていないところに震源があった。


追記2:(島村英紀『地震は妖怪 騙された学者たち』から)

 日本の学会では不思議なことがある。世界的にはこういった「人造地震」の研究が重要とされていて、国際的な地震学会が開かれるときには、この人造地震(英語では誘発地震 induced seismicity という)が特別なセッションになっていることが多いが、日本では研究者がほとんどいないのである。

 科学技術庁の研究所に属するある地震学者がこのテーマで学会発表しようとしたら、事前に内容を役所に見せるように言われたうえ、役人が学会まで発表を見に来たことがある。政府や電力会社のような大企業の意に添わない研究はしにくいのである。

たとえば政府の公式見解はこちら


追記3:四川大地震(2008年)の原因もダム?

 四川大地震(2008年5月、10万人以上が犠牲になったといわれる)が、四川省に作られていた紫坪鋪(ジビンプ)ダムによるものではないか、と中国政府の一部の関係者や科学者が主張し、自然災害だとする人々と対立している(雑誌『Days Japan』 2009年3月号,、9頁)。このダムは震源からわずか5kmのところにあり、最大11億立米の水を蓄えることができるダムだ。


追記4:かつて世界一の高さを誇ったダムは、(地震と)地滑りで大事故を起こし、廃棄されました

 イタリアにあるヴァイオントダム(バイオントダム)はイタリアのヴェネト州ピアーヴェ(Piave)川の支川ヴァイオント(Vajont)川の深い渓谷に作られた、アーチ型のダム。1960年11月に完成した。当時、堤高262mと当時の世界最高だったダムである。

 しかし、このダムでは貯水開始後、ダムに起因すると思われる地震が頻発するようになり、そのために地盤が弱くなっていたのだろう、水深が130mとなった時点で最初の地滑りが発生した。この地滑りで貯水池が二分されてしまった。このため、二つの貯水池を結ぶバイパス水路が作られて、ダムとしての機能を維持した。

 しかし、その後の1963年、記録的な豪雨に見舞われ、9月には貯水量を下げるため放水が行われたが、10月9日夜、ダムの南岸の山が2km以上に渡って地滑りを起こして崩壊してしまった。

 このため、 2.5億立米以上という大量の土砂がダム湖に流れ込み、ダム地点で最大100mを超す津波を引き起こし、5000万立米の水が溢れた。

  この濁流はダムの北岸と下流の村々を押し流し、ダムの工事関係者と下流に住む人2125人が死亡し、594戸の家屋が全壊するという大惨事となった。しかしダム自体は、最上部が津波により損傷した以外はほとんどダメージは無く、現在も水が溜まっていないダムの本体だけが残っている。しかし、ダムとしては放棄されて、水は溜まっていない。

 2008年にユネスコは国際惑星地球年の一環としてバイオントダムの事故を技術者と地質学者の失敗による「世界最悪の人災による悲劇」のワースト5の一つに認定した。


追記5:米国では水圧破砕法で地震が起きたために、2012年に井戸を閉鎖しました(AFPの記事

米オハイオの連続地震、天然ガス採掘が原因か 2012年01月06日 10:48 発信地:ワシントンD.C./米国

【1月6日 AFP】米オハイオ(Ohio)州で最近起こっている小規模な連続地震の原因は、「水圧破砕法」と呼ばれる天然ガス採掘の方法に原因がある可能性が浮上し、同州では関連が疑われる注入井を一時閉鎖している。
 
大みそかの31日には、最近同州で起きた中で最も大きいマグニチュード(M)4.0の地震が発生した。震源は同州北部のヤングスタウン(Youngstown)近郊で、米エネルギー大手D&Lエナジー(D&L Energy)が採掘している天然ガス井に近い。

この地域は「ユーティカ頁岩層(ユーティカ・シェール、Utica Shale)」と呼ばれる広大なシェール層にあたり、「水圧破砕法(フラッキング)」という方法による天然ガス掘削が大々的に行われている。オハイオ州の石油・ガス産業は多くをこうした開発に頼っている。

水圧破砕法(フラッキング)とは、化学物質を含む液体を高圧注入して岩石を破砕することでシェール層に割れ目を作り、同時に砂などの支持材も注入して割れ目を確保し、そこから層内の原油やガスを取り出す掘削法だ。同州の推定埋蔵量、最大55億バレルの石油と4250億立方メートル相当の天然ガスを採掘する上で鍵となる技術だと考えられている。

オハイオ州では12月24日にM2.7の地震が発生した後、ヤングスタウンにある注入井を密かに一時閉鎖した。しかし31日の地震の後にはさらに、その注入井から半径8キロ以内にある注入井にまで閉鎖範囲を拡大した。

■震源地はいずれも注入井の近く

米コロンビア大学(Columbia University)ラモントドハティ地球観測研究所(Lamont-Doherty Earth Observatory)の地震学者ジョン・アームブラスター(John Armbruster)氏は3日、AFPの取材に「(地震との)関連性は非常にありうると思う」と答えた。「3次元解析の結果、震源は問題の注入井の底から約1キロの辺りだった」という。

同氏のチームは昨年の11回の地震を分析し、地震と注入井が関連している可能性は「非常に高い」と州当局に報告。その結果、当局が注入井の一時閉鎖を決定した。オハイオ石油ガス協会(Ohio Oil and Gas Association)は、地震の発生原因などがはっきりするまで注入井を閉鎖することは正しい決定だと受け止めている。

注入井で使用された液体は地上に戻ってくるが、汚染されているため、別の注入井に廃棄処理される。その排水処理が地震を引き起こしているとの見方もある。同協会のトム・スチュアート(Tom Stewart)副会長によると、同州で操業中の注入井は180か所で、排水量は年間700万バレルに上るが、1980年代の採掘開始以来、問題が生じたことはまれだという。

しかし、こうした採掘を大規模に行った場合の悪影響については、ほとんど知られていない。米国では昨年、アーカンソー(Arkansas)州で大規模な群発地震が発生し、当局は注入井2か所の操業を一時停止させた。2009年にはテキサス(Texas)州フォートワース(Fort Worth)とダラス(Dallas)周辺の注入井とその近辺で発生した地震との関連性を地震学者が突き止めている。

ヤングスタウン注入井の操業開始は2010年12月。その直後の2011年3月から、地震は発生し始めた。これまでにけが人はなく被害も軽微だが、同州周辺で地震が発生した記録はほとんどないため、大きな驚きをもって受け止められている。

そして年末までに発生した地震は11回。震度はM2.1〜4.0の範囲で、震源の場所と深さはほぼすべての地震で一致している。(c)AFP/Jim Mannion

【島村英紀による註】 じつは、この水圧破砕法は、地下水が十分にはないところでの地熱開発の有力な方法なのである。自然エネルギー開発の一環としての地熱開発には、この種の問題が潜んでいる可能性がある。


追記7:(古い情報ですが)かつて日本で注水実験は2回行われて、2回とも地震の発生が確認されています。

1)長野県松代(群発地震が起きたあと)の注水実験

  報告では「岩の中に注水すると地震が生じやすくなるという、いくつかの事例を検証するた めにわが国ではじめての試錐が1969年から国民宿舎松代荘ではじまり、1933m掘って(実際の(深 さは1800m)、1970年 1月15日〜18日、 1月31日〜 2月13日の 2回にわたり計 2883立方メートルの水を注入した。
 その結果注入地点の 3km北で、 1月25日02時ころから急に地震がふえ、この 1日 で54回に達した。地震活動は注水中続き、注水後徐々におさまった。この地点で の地震活動は注水前は 1日 2回くらいだった。」とあります。

2)(阪神淡路大震災を起こした)野島断層で、「注水実験」
1995年1月に阪神淡路大震災が起き、その後、1997年、2000年の二回にわたって行われました。


追記8:米国では将来のエネルギー資源の掘削として行われている「水圧破砕」で地震が起きています。
(ロイターwebの記事。2012年4月19日)

米内陸部での地震増加、「ほぼ確実に人為的」=USGS
2012年 04月 19日 10:52 JST

[ワシントン 17日 ロイター] 米地質調査所(USGS)の研究者らは、米内陸部にある石油やガスの掘削で利用した廃水を処理する場所の近くで、地震の回数が「飛躍的に」増えたとする報告書をまとめた。

報告書は、アーカンソー州、コロラド州、オクラホマ州、ニューメキシコ州、テキサス州の米内陸部で昨年、マグニチュード(M)3以上の地震が20世紀の平均の6倍に増えたと指摘。

化学処理された水や砂を地下に注入して石油やガスを採掘する「水圧破砕」と地震の増加をはっきりとは関連付けていないが、水圧破砕で出る廃水などが断層をずらす原因になっている可能性を示唆している。

同報告書の内容は、サンディエゴで開催される米地震学学会の会合で詳しく協議されるが、抜粋では「M3以上の地震増加は現在進行中」と指摘。「ここに記述された地震活動率の変化は、ほぼ確実に人為的だが、採掘方法の変化もしくは石油・ガス生産の生産速度にどれぐらい関係しているかはいまだに分からない」としている。

USGSの統計によると、M3以上の地震発生回数は1970─2000年には年間21回(誤差7.6)だったが、2001─2008年には同29回(誤差3.5)となり、2009年には50回、2010年には87回、2011年には134回と飛躍的に増えた。

USGS地震科学センターのアーサー・マッガー氏は、急激な地震の増加について「理由は分からないが、自然現象とは思わない。なぜなら自然では、これほどまでの増加は余震や火山環境でしか見られないからだ」と語っている。


追記9:米国では将来のエネルギー資源として脚光を浴びているシェールガスの採掘でも地震が起きています。
(朝日新聞デジタルの記事。2012年4月26日)

シェールガス採掘、地震誘発? 米中部、M3以上6倍

 米中部で起きるマグニチュード(M)3以上の地震が、10年前に比べ6倍以上に急増していることが米地質調査所(USGS)の調べでわかった。もともと地震があまり起きない地域で、研究チームは、日本でも輸入に向けた動きがあるシェールガスなどの採掘活動などに伴う「人為的な地震」が関係しているとみている。

 米地震学会での発表によると、米大陸中部でM3以上の地震は、1970年から00年までは平均年21回。それが01〜08年には平均29回、09年は50回、10年は87回、昨年は134回と6倍以上になっていた。昨年はコロラド州とオクラホマ州でM5を超える観測史上最大級を記録した。

 研究チームは「自然原因とは考えにくい」とし、この地域で増えているシェールガスや石油の採掘との関連を指摘。採掘で出てくる大量の廃水を深井戸から高圧で地下に戻しているため、これが地震を誘発している可能性を挙げた。

 メンフィス大地震研究情報センターのホールトン研究員によると、地下に戻された水が、断層の隙間に入り込んで滑りやすくなり、地震が起きやすくなったと考えられるという。

 30キロ四方に8本の井戸(深さ1〜4キロ)が集まるアーカンソー州のシェールガス採掘場を調べたら、それまではほとんどなかったM2.5以上の地震が、井戸の操業が始まった09年に10回、11年には157回に激増した。


追記10:スペインで起きた地震も「人間が起こした」地震でした。
(共同通信の記事。2012年10月22日。東京新聞から)

地下水くみ上げがスペイン地震に 英科学誌、地盤沈下でゆがみ

東京2012年10月22日 朝刊

【ワシントン=共同】昨年五月にスペイン南東部の地方都市ロルカを中心に大きな被害が出たマグニチュード(M)5・1の地震は、長年の地下水くみ上げに伴う地盤沈下が引き起こした可能性が高いとする研究結果を、カナダやスペインのチームが二十二日付の英科学誌に発表した。

 この地震は深さ二〜四キロと非常に浅い場所で断層が動いて被害が拡大した。チームはコンピューター解析で、局地的な地盤沈下によって地殻に異常なゆがみが生じていたことを確かめた。

 高圧の水を地中に送り込む新型天然ガス「シェールガス」の採掘や二酸化炭素(CO2)を地中に貯留する手法など、新たな技術にも警鐘を鳴らす内容。チームは「地震が発生しやすい場所で地中に人為的な変化を与えると予想外の影響が出る」と指摘している。

 チームは、ロルカ南方の盆地の下にある帯水層を中心に、地下水位が一九六〇年代から約二百五十メートルも低下したことに着目。南側の地盤が沈下することで年々ゆがみがたまり、北側の地盤が乗り上がる逆断層型の地震が浅い場所で起きたとみられると結論づけた。

 地震は二〇一一年五月十一日に発生。チームによると、建物が倒壊して百人以上の負傷者が出たほか、九人が死亡した。スペインでは一九五六年以来の被害規模とされる。


追記11:島村英紀『夕刊フジ』連載・その61人工的に起きたオクラホマの誘発地震」

「群発地震研究会」という地震学者の会が長野県松代で行った地震誘発のための注水実験(1970年
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